Students for a Free Tibet Japan
代表 ツェリン・ドルジェ
2024年3月10日
チベットが中国共産党政府に侵略され、首都ラサの一般市民が蜂起した1959年3月10日から65年を迎えます。中国共産党の人民解放軍は「解放」するはずの市民を砲撃し、多くの無辜の命が失われ、ダライ・ラマ14世は亡命を余儀なくされました。民族蜂起65年の記念日は、すなわち、暴力と恐怖によるチベット支配が65年続いていることを意味します。また、ラサで1987年から断続的に抗議活動を続けた非暴力の僧侶たちに人民解放軍が再び銃を向け、中華人民共和国史上初の戒厳令がラサに敷かれた1989年3月7日から35年、ラサのあるウツァンのみならずカム、アムドの伝統的なチベット全域で多くの市民が非暴力で自由を訴え武力制圧された2008年3月から16年を迎えました。私たちStudents for a Free Tibet Japan は、この65年のあいだに命を懸けて自由を訴えたチベットの英雄たちに心からの弔意と敬意を表し、世界中に離散したすべてのチベット人の心は彼らとともにあると申し上げます。
中国は2024年1月の第45回国連人権理事会でUPR(普遍的・定期的レビュー)の対象となり、国連加盟国の24カ国がチベットの人権状況に深刻な懸念を表明しました。中国政府がチベットで続けている人権侵害に向けられる視線はより厳しさを増しています。
UPR直後の2月中旬、中国政府は長江上流のディチュ(金沙江)流域に計画する水力発電ダム建設によりカム地方のデルゲ(四川省甘孜藏族自治州徳格県)で寺院6座と村落2カ所が水没し2000人が強制移住対象となることを公表し、RFA(ラジオ・フリー・アジア)などによると、一方的通告すぎるとして撤回を求め州政府庁舎前に集まった地域住民が暴力的な制圧を受け、2月末までに1000人以上が身柄拘束されたと報じられています。水没する寺院の一つ、ウォントェゴンパ(དབོན་སོན་དགོན།/汪堆寺)はパクパ(1235〜80年)の時代にさかのぼるサキャ派の仏教僧院で、文化大革命期の破壊を免れた14世紀の仏壁画が現存し、2018年には甘孜州政府の公式サイトが「当地で最も大規模で最も古い貴重な文化財」とのコメントつきで紹介しています。公共事業が住民の生存権を脅かす場合、住民説明会をひらいて理解を求め、補償金などで弁償を図るのが法治国家の政治であり、中国政府の行政能力は施策を担うに値しないと言わざるを得ません。法的根拠なく身柄を拘束された多数の罪なき人々を速やかに釈放するとともに、強権力による強制ではなく、地元住民への納得のいく説明と補償、文化財の保護が必要です。
チベットで中国政府は、子どもたちが自宅から通学できる小規模な村の学校を次々に閉鎖し、都市部に建設した大規模な寄宿制学校への入学を強制しています。集団生活で衣食住すべてを管理される子どもたちは未就学児から高校生まで計約100万人に上ると推計されています。米国は2023年8月、「チベットの若い世代から民族固有の言語、文化、宗教を排除しようとしている」として中国当局者へのビザ発給制限を通告、欧州議会は同年12月に同化政策を非難する決議を採択しました。これらは、中国外務省が主張する「チベット問題を利用した内政干渉」などという短絡的な指摘ではありません。19世紀までの奴隷制度、1933〜45年のホロコースト、1948年に世界人権宣言が採択された後も1991年まで続いたアパルトヘイトなど、長い苦難の歴史の末に人類が勝ち取った人権と民主主義の普遍的理念の大切さ、差別と搾取の愚行を21世紀の現在に甦らせてはならないという危機感の表れです。ひとつの民族からそのアイデンティティーを奪う行為がいかに歴史を逆行させる暴挙であるか、中国政府には自覚が求められます。
中国政府はまた、「宗教の中国化」を推進し、中国共産党は宗教よりも上位にあると位置づけ、党への忠誠を信仰心よりも優先させる宗教弾圧政策を強めています。仏への帰依、内観や菩提心といった個々人の心のはたらきと、社会を効率的に運営するための政治制度を構成員が共有できるよう整えた政治経済倫理の一つである共産主義思想という、本来は比較対象になりえない異なるレベルの概念に優先順位をつけること自体、破綻は明らかです。仏教の世界観に基づいた存在である化身ラマのダライ・ラマ法王に対し、中国共産党がその存在をコントロールできると考えること自体、根底から齟齬をきたしています。チベットにはチベットの価値観、世界観があり、中国のそれとはまったく異なっていて、化身ラマの候補者選定は、そもそも俗世の存在である中国政府が関与できるものではありません。
中国政府は国家分裂防止と治安維持の名目で、チベット人のあらゆる行動を監視し、インターネットやソーシャルメディアを検閲し、個人間のクローズドなグループチャットでの発言までも摘発しています。DNA採取や眼球光彩スキャン、顔認証など、あらゆるチベット人の個人データを大量に収集し、追跡し監視下に置く一方で、全国人民代表大会では2023年のチベット自治区の状況を「重大な政治的集団テロは発生せず、市民の安心感と満足度は99%以上」と自画自賛し、世界の失笑を買っています。
わたしたちは中国政府に対し、チベットにおいて無知と無理解から行われている誤った政策を即時に撤回し、民族弾圧をやめ、チベット亡命政府との対話により、チベット問題の根本的な解決をはかることを強く求めます。