第一回 黒木露讃さん

黒木露讃さんインタビュー

チベット料理レストラン「タシデレ」オーナーの日常

SFTJ(以下・S):今日はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。
まず、ふだんの露讃さんの生活スタイルをお聞きしていいですか?

露讃さん(以下・露):はい、お店の営業日は、朝9時半に出勤します。お店のスタッフはわたしと厨房の2人で3人。厨房の2人は料理の仕込み、わたしはお店のお掃除などの準備をします。けっこうバタバタで、たまに開店時間ギリギリの1分前に椅子をセットすることもあります。

S:タシデレのお店は意外と広いので、ここを1人で掃除するのは大変そうですね。

露:はい。11時に開店して、ランチタイムのラストオーダーはいちおう午後2時半なのですが、お客さんによってはランチを食べて、おやつを食べて、夜も食べていく方もいらっしゃいますね。

S:居心地がいいということですね。そういうとき休憩はどうしているんですか?

露:まず厨房の2人が、2時と2時半に順に休憩に入ります。わたしはそのまま接客をして、厨房の2人には夜に向けてまた4時半に戻ってきてもらいます。
わたしにとっては全く苦ではないし、食べ終わったら、お店の時間があるから帰ってください、とは思いません。お店で過ごしたかったらずっといていただいて構いません。
夜は終電が11時35分だからバタバタしますね。自宅まで2時間くらいかかるので、パーティで盛り上がったら、そのまま帰らずお店で寝て、始発で1度帰ってまたお店に出てくる、ということもあります。でもそれを大変だと思ったことはないですね。

S:けっこう、ハードですね。お店を閉めて普通に帰る日も、寝るのは午前2時過ぎになりますよね?

露:そうですね。奈津子さん(注:露讃さんの奥様)は帰ってからお風呂に入ると言うけれど、1時半からお風呂入って、そうすると寝るのがなんだかんだで3時とかになっちゃう。人間、寝なかったら死んじゃうけど、お風呂に入らないで死ぬ人はいませんから(笑)

S:お店がお休みの日はどう過ごされていますか?奈津子さんとどこかにお出かけされるとか?

露:奈津子さんは原則土日がお休みなんです。お店は土日は休めないから、お休みが合わなくて。奈津子さんは、大体金・土・日曜日に手伝いに来てくれます。わたしはお客さんの対応をして、その他のイベントに関わることや営業関係の対応などを、奈津子さんがやっています。
お店の定休日(水曜日)は買い物、病院、銀行、役所、お世話になっているお寺を回って時間がなくなってしまうかな。

「タシデレ」はチベットを知る場になってほしい

S:お店を始めようと思ったきっかけを教えてください。

露:もともとこういうお店があったらいいな、と思っていました。
例えば、チベット関係のイベントの日にちが重なってしまい、参加者が分散してしまうことがよくある。参加者自身は両方行きたくても行けない、イベントを開く側もお互い、ただでさえ多くない、チベットに興味のある人を取り合うことになってしまったり。
それで、イベントのチラシをいつも置いてあって、情報の交換ができるようなところがあればいいなあ、と思っていました。
さらに、チベットを知っている人にも知らない人にも楽しんでもらえる、チベットの絵や写真、品物なんかが置いてある、センターみたいなところがあるといいな、と考えていました。でも、なかった。だったら、自分が作ろうと。

S:なるほど。

露:ちなみにこの場所は、自分で探したわけではないんです。最初、下北沢の物件に申し込んで、うちは競合して負けちゃった。しばらくしてその時の不動産屋さんからここがあるよ、と紹介されました。
広いし、1階ですし、それで決めました。

S:お店を営業していてよかったことはなんですか?

露:「チベット料理はおいしいね」と言われることはもちろん、うれしいです。
それ以上に「なぜチベット料理の店なのにインドカレーが出てくるの?」「チベットは中国でしょ?国籍は中国ですか?」などの質問に答えて、自分が亡命チベット人でインドから来ていることや、本土のチベット人の置かれている状況を伝えたり、チベットのいろいろな話ができるのがうれしいですね。
「チベットに行ってきたよー」というお客さんの話を聞くこともできますね。ヒマラヤ登山や、ラダック、スピティに行く人の話を聞いたり。登山から戻って来た人のお疲れさま会で写真を見せてもらったり。
そんな風に話をしていると、あるお客さんは、前は中国が大好きだったのに、中国がチベットにそんなひどいことをしているなんて、と知って泣いてしまいました。

S:SFTJのチラシを置いてもらっている人が、先日、中国語で遺書を書いて焼身抗議したチベット人について、「仕事でお世話になったりもして、中国人はいい人たちだと思っているし、中国が好きだからこそ、チベットや少数民族の弾圧をするのをやめてほしい」とおっしゃっていました。

露:お店の常連さんには中国人の方もけっこういらっしゃいます。
「チベットに行ってきたよ」という話もするけれど、そこはお互い、地理的・政治的なことは触れない感じで(笑)。
ただ、自分はチベット人がデモをやったり、中国大使館前で抗議したりすることは、政治的なことだとは思ってないんですよ。ほんとうのこと、事実を言っているだけだから。政治っていうのは、ウソやハッタリが混じるでしょう?
でもチベット人の抗議内容、チベット本土で行われている中国政府からの不当な仕打ちとかは事実だから。

日本の人にチベットをもっと知ってもらいたい

S:日本でチベット人として生活していて、大変なことはなんでしょう?

露:まず、日本は「書類、書類」でしょ?
わたしは日本語を読んだり書いたりがそんなにできないから、それが大変(苦笑)。話したり聞いたりも100%はわからないですし。
そして、日本でチベットのことを知ってもらう活動するのはいろいろ大変ですね。一般の人はあまり興味がないし。みんなの興味があんまりないと、支援活動をしている方も疲れちゃう。
そこで、法王さまやリンポチェ(注:高僧)など偉い人の話ばかりではなくて、ふつうのチベット人の話を聞くイベント、対話ができる会を開いたらいいんじゃないかな、と思います。
みんな、 政治的な話だけではなく、チベット人の生活の話とか聞きたいと思いますし。

S:チベット人の話を聞きながらお茶を飲む、といった会ですね。

露:そうそう、そういう感じの。長野県松本市のゲニェンさんや柳田さんが年に一回開催している「キキソソ チベットまつり」のように、楽しい事柄、そこからチベットに入っていく、そういうのもいいですよね。日本人は祭りが好きですから。

S:ダライ・ラマ法王をはじめとするチベット仏教やヒマラヤ登山、政治や映画など、さまざまなきっかけでチベットに興味を持つ日本人は少なくないと思いますが、そこからチベットの別の側面に関心が広がっていかない傾向があるんでしょうか。

露:チベット仏教を一生懸命に勉強したり修行したりする人は政治的なデモや集会にはノー・タッチ、関わらない傾向がありますね。
逆もあります。政治的な活動に熱心に参加する人は仏教に興味がなく、法王さまのお話も一般的な内容しか聴かない。
仏教でも文化でも、おおもとのチベットがなくなったらすべて消え去ってしまいます。どんな大きな樹でも、根っこがなくなれば、いずれ枝も葉もすべてダメになるのです。
日本は誰もが忙しい国で、日本で生活するチベット人も皆、時間に追われて暮らしています。仕事や子どもの学校行事に重なってしまうと、チベットのために集まることもままなりません。
ただ、毎年12月10日の世界人権デー、ダライ・ラマ法王のノーベル平和賞受賞記念日や、3月10日のチベット蜂起記念日など、世界中でチベット人がチベットのために行動するナショナルデーは、日本に住むチベット人も最優先に参加できる環境ができればいいと願っています。

S:今日はいろいろとありがとうございました。SFTJの今後の活動のヒントになるお話も聞けたと思います。

※ SFTJでは毎月第二木曜日の19時頃から「タシデレ」でミーティングを開いています。
メンバー以外の飛び込み参加も大歓迎ですので、この機会にチベット料理を味わってみませんか?

タシデレについて

「タシデレ」Facebookページ:https://fb.com/tashidelektokyo/
東京都 新宿区 四谷坂町12-18-102
(都営新宿線曙橋駅より徒歩5分、JR線四谷駅、市ヶ谷駅、地下鉄丸ノ内線四谷三丁目駅より徒歩10分)
TEL:03-6457-7255 OPEN:11:00〜22:00(水曜定休)

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