2021年8月8日
Students for a Free Tibet Japan
代表 ツェリン・ドルジェ
2021年8月8日、過去にない異例な状況下での東京2020夏季オリンピックが閉幕した。肌の色、言語、宗教、性別、国や社会的身分など、ありとあらゆる壁を超えて地球上のアスリートが競う「平和の祭典」は、多人数が一カ所に集まることが生命のリスクと化した感染症パンデミックの中で、観客から隔離され、開催国の地域社会や一般市民から遠ざけられた形で実施された。そして、6カ月後の2022年2月には、中国・北京で次期冬季オリンピックが開催されようとしている。
オリンピック憲章は、その目的を「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」「すべての個人がいかなる差別も受けることなく、友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる」と明言する。東京オリンピックの運営を巡っては、大会組織委員長、開会式ディレクター、音楽担当者らの辞任や解任が相次いだ。いずれも女性蔑視や障害者虐待、人種差別容認など、人権に対する姿勢を厳しく問われた結果であり、これは端的に、オリンピック運営組織と開催国にはオリンピック憲章の理念の尊重とふさわしい言動が常に求められ、注目され、批判を受ける立場にあることの表れにほかならない。
翻って、北京冬季オリンピックを開催する中国共産党政府は、独善的なナショナリズムを振りかざし、国際条約も国内法も無視した人権弾圧をますます強めている。各国と協力して取り組むべき感染症対策では、国際調査団の行動を制限した。香港では、国際公約の「一国二制度」を無視して思想的自由や政治的権利を剝奪し、法の枠内で自らの意見を主張した香港の人々を投獄した。チベットでは僧侶が寺院での修行を許されず、言語教育や文化継承の権利が奪われ、移動の自由も制限されている。ウイグル人には職業訓練という名目で思想教育の強要や暴力を伴う強制収容が大規模に続いており、米政府は2021年7月の年次報告書で「ジェノサイド(民族虐殺)」と認定した。モンゴルでは環境破壊が進み、モンゴル語教育が禁じられ、抗議する人々が弾圧、投獄されている。政府の施策に対する国民の批判や疑念を権力で弾圧する恐怖政治は、とても法治国家とはいえない状況だ。
東京オリンピックの自転車競技で金メダルを獲得した中国代表チームは、毛沢東の肖像バッジを胸につけて表彰台に上がり、政治宣伝活動を禁じたオリンピック憲章に反する行為だと指摘された。習近平体制から顕著になった個人崇拝と国威主義の反映であると同時に、スポーツを国威発揚の道具として扱う中国政府の姿勢がいかに国際社会の共通理念や人権感覚とかけ離れているかをあからさまにした一幕だった。
国際社会がこれまでの数世紀をかけて人類共通の理念として築き上げた、人が人として生まれながらに持つ、自由で、平等で、差別されてはならない権利をないがしろにする中国政府によるオリンピック開催は、オリンピック憲章に反する行為といわざるを得ない。
北京夏季オリンピック(2008年)の誘致で中国政府は「人権状況の改善を示す」と公約したにもかかわらず、チベットで2008年3月に広がった市民の抗議を武力弾圧し、民主活動家の拘束を続け、治安維持の口実でオリンピックを社会統制の強化に利用した。チベットでは2009年以降、判明しているだけで165人が抗議の焼身をしている。暴虐をこれ以上続けさせてはならない。既に英下院や欧州議会は北京冬季オリンピックへの政府代表団派遣中止を決議し、米国連邦議会では開催地の変更決議案が出されている。
東京オリンピック閉幕にあたり、Students for a Free Tibet Japanは、次期冬季オリンピック開催地・中国の専横をこのまま許してはならない、と国際オリンピック委員会と国際社会に訴える。中国政府に対しては、オリンピック開催までに、独立した国際調査団の無条件受け入れと、人権状況改善の可視化を要求する。中国政府にオリンピック開催の資格はない。